香川県庁舎東館
設計:丹下健三
香川に行ったら、必ず訪れるべき世界的な名建築。
香川県は建築天国である。ご存じ現代アートで世界的に知られる直島には安藤忠雄設計のベネッセミュージアムをはじめSANAA(妹島和世+西沢立衛)などの建築があり、高松市内にはイサム・ノグチ庭園美術館や谷口吉生の丸亀市猪熊弦一郎美術館といった名作も多い。
が、その数ある香川の名建築の中でも特に素晴らしいと言えるのが、この丹下健三設計の<香川県庁舎>(現・東館)だ。完成は昭和33年。明治27年に落成した旧県庁舎は太平洋戦争時の空襲で焼失、戦後10年が経ち県民のための新しい庁舎が求められていた。またそれは新たな時代を象徴する、民主主義を体現したものでなければならなかった。そこで設計者に選ばれたのが、丹下健三だった。瀬戸内海を挟んだ向かいの岡山県では、丹下の師匠である建築家・前川國男による<岡山県庁舎>のプロジェクトが進行していた。
当時まだ40代半ばという若き丹下が設計したこの建築の最大の特徴は、日本の伝統的な木造建築の姿をコンクリートで表現したその独自性にある。柱と梁、そして寺社建築などにみられる勾欄(こうらん:手すり)など。この日本的なオリジナリティーあふれるモダニズム建築のカタチは、高度成長期に日本各地で建てられた庁舎建築の元になり、そのデザインはさかんに引用・参照されていくことになった。
また、広く民衆に開かれた庁舎を目指し、それを建築で表現したことも特筆すべき点だ。道路から敷地内へはピロティ(柱で持ち上げられた空間)が人々を建物へと誘う。猪熊弦一郎の壁画があるロビーには丹下自身が設計した家具が並び、県民がくつろげる空間となっている。外から見るとロビーはガラスで覆われ、民主主義の透明性が感じられる。南側には現代的な日本庭園が憩いの場として造られた。戦前の威圧的な庁舎ではなく、そこに暮らす人々が気軽に立ち寄ることができ、芸術など文化にも触れられるという、戦後の民主主義を体現したものだったのである。
時代が経つにつれやがて手狭になった庁舎の向かいには、同じ丹下健三の手により、地上22階建ての新庁舎(現・本館)が建てられた(2000年)。近年、防災拠点としての耐震性能や庁舎としての執務機能の確保を目指し、耐震化のための免振工事と一部部材の更新が施された。工事は建築の文化的価値を考慮しながら行われ令和元年(2019年)に完了した。
東館一階ロビーでは、その耐震工事の様子やオリジナルの家具、建築模型などが飾られている。香川県を訪れたら、まず一番に訪ねて欲しい建築である。
香川県高松市番町4-1-10
TEL 087・831・1111(代表)
JR高松駅徒歩12分
開庁時間 8:30~17:15(月~金曜)
土日・祭日・年末年始休。