香川県文化会館

1965

大江宏

建築家・大江宏の隠れた名作を高松で鑑賞する。

香川・高松の名建築と言うと、真っ先に思い浮かぶのが丹下健三の<香川県庁舎>(1958年)だろう。しかしその県庁舎の斜め前に静かにたたずむ隠れた名作がある。それが大江宏設計の<香川県文化会館>である。

 

そもそも瀬戸内海周辺の、特に50年代~70年代にかけて、香川県に名建築が集中して多い理由には、当時の県知事:金子正則(任期:1950年~1974年まで6期24年間務める)によるところが大きい。猪熊弦一郎やイサム・ノグチといった芸術家との交流はもちろん、丹下健三や大江宏、芦原義信といった当時、新進気鋭の建築家に、県の要となる施設の設計を依頼したのだ。金子元知事は戦後復興で変わり行く新しい社会の中で、香川県という地域の文化と伝統、芸術、教育といったものを育む場所として、県の「文化会館」「武道館」「県立高校」を整備することとし、それを大江宏に委ねた。

 

大江宏の代表作としては<乃木神社>(1962年)や<国立能楽堂>(1983年)が知られているのが、この<香川県文化会館>の特筆すべき点は「混在並存」というコンセプトでデザインされたことである。西洋由来のモダニズム建築と日本の伝統建築の様式を融合させるのではなく、文字通り混在・並存させたという特徴があるが、その背景には丹下設計の香川県庁舎以降、日本の木造建築の形をコンクリートで再現したモダニズム建築の手法が日本中に蔓延したことへのカウンター・パンチであった。

 

丹下の<香川県庁舎>と大江の<香川県文化会館>を対比させるとその違いが際立ってくる。県庁舎が「民衆」「群衆」として市民を捉えていたのに対し、文化会館のスケールやデザインはあくまで市民ひとりひとりを「個の人間」として意識していることが感じられる。例えば、県庁舎が巨大なピロティのもと民衆を建物に招き入れるのに対し、文化会館の入口は 日本の木造で、伝統的な木造建築のスケール=「人」の尺度で建物に招き入れるといった具合だ。

 

文化会館には2つの機能が求められていた。「能をはじめとする伝統芸能を演じることができる舞台をつくること」と「県の重要な伝統産業である漆芸の伝承・保存・展示する場をつくること」である。内部空間に脚を踏み入れるとコンクリート造の箱の中に、入れ子状に木造の伝統建築が挿入されているようなデザイン。和の木造建築の意匠を、住宅のような私的な場所だけでなく、社会的なオープンな空間にまで普遍的に押し出そうとした思いから生まれたものである。

 

ちなみに、大江と丹下は同じ1913年生まれ。東京帝国大学建築科の同級生であり、良きライバルであった。通りを隔てて建つ、そのライバル同士の建築を見比べてみるのもいいだろう。

 

  • 展示空間。コンクリート造の建物に、入れ子状に木造建築の意匠が組み込まれていることがわかる。
  • 2階の展示スペースへと続く階段。
  • 展示スペースのコーナー。打ち放しコンクリートと木造意匠のハーモニーが感じられる。
  • 館内の壁面には、陶板が貼られている。
  • エントランス部分。
  • 通りからエントランス付近をみる。
  • 通り沿いの外壁には、石が貼られている。
  • 吹き抜けになっている、展示空間。

香川県高松市番町1‐10‐39

087-831-1806

開館時間・休館日等は要問合せ。