メインダイニング エレテギア
設計:中村拓志
瀬戸内の風景に溶け込む、中村拓志デザインのレストラン建築。
建築家・中村拓志の設計により、リゾートホテル「ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道」のメイン・ダイニングが生まれた。新たに計画された「ダイニング」の敷地は海、山を望むことができるプールサイド。その立地から、屋根だけが浮かび四周に視線が抜け、自ずとそこに人が集る建築をめざした。
屋根を形づくる架構は本来構造体には使わないわずか約4cmの細い部材を組み合わせたもの。レストランのテーマである「キロメートル・ゼロ」(地産地消)を意識し、この部材は地元の赤松を用いている。柱も寸法を揃えることでより高い透過性と手で握れるほどの寸法というヒューマンスケールによる親しみやすさを獲得している。細い部材を束ねることで大きな力を支えることができる架構は、かつてこの地を治めた武将、毛利元就が結束の大切さを説いた「三矢の訓」にも通じるという。バナキュラー(地域性)な雰囲気さえ感じる木のへぎ板葺きの入母屋屋根が高度な加工技術による繊細な構造によって軽やかに支持されることで、極めて現代的なリゾート建築となっている。
また新たに庇(ひさし)が加えられ水盤に浮かぶように佇む「キッチン」も同時にリノベーションされている。普通は従業員向けに使われる業務用扉(!)を開くと、そこには大胆なダインニング・スペースが広がる。目の前でシェフの料理づくりを眺めながら食事を堪能できるシェフズ・キッチンだ。ステンレスの大きな厨房機器が並び、客席の椅子はその機器に沿って並んでいるようなレイアウトで、厳選された食材を切る音が間近で聞えるほどその距離は近い。このレストランでは、シェフたちがグルメの聖地といわれるスペイン・バスク地方で学んだ料理が瀬戸内の食材によって提供される。そんなシェフたちの華麗な手さばきに見入ると、まるで食べ手も作る楽しさを共有しているかのような気になる。そんな新しい食べる楽しさと建築空間が一体となった、他にはない“食の舞台”がここにある。(text-Jiro Tsukamoto)
広島県尾道市浦崎町大平木1344-2 ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道内
TEL 0120・87・3333(ホテル直通)
ランチ 12:00~14:00(LO)、ディナー17:30~20:30(LO)
総席数70席。要予約。
JR福山駅より車で約30分。
広島空港から車で約60分。