© Sira E. Goodman

LOG

2018

設計:スタジオ・ムンバイ・アーキテクツ

世界中の建築&アート関係者が注目する、インド人建築家による唯一無二のホテル。

千光寺につながる尾道水道を見下ろす坂道。車が入ることができない、坂のまち尾道を代表する道の中程にLOGは位置する。Lantern Onomichi Gardenを意味するこの施設は、1963年に建てられた集合住宅をホテル、カフェ、ギャラリーといった多目的施設にリノベーションしたものだ。宿泊施設のみならず、尾道の文化や自然を紹介し、尾道から新たな文化の発信する公共性をもつ施設を実現させたのはインド・ムンバイを拠点に活躍する建築家ビジョイ・ジェイン率いる<スタジオ・ムンバイ・アーキテクツ>。このLOGは、スタジオ・ムンバイのインド以外で初となる建築作品だ。

 

彼らが計画の拠り所としたのは、LOGのすぐ近くにある小説家・志賀直哉が「暗夜行路」を練った長屋(志賀直哉の旧居)と同じ高さに位置するこの地からの風景。志賀が見たであろう尾道と、ビジョイ・ジェインを惹き付けた小津安二郎監督の映画「東京物語」での尾道の風景の追体験をコンセプトとし、海側と山側を繋ぐことに力が注がれた。

 

1.2階は住戸の壁を取払い、海側、山側の庭をつなぐピロティ空間を創出。周囲にカフェやギャラリーが配されている。また、整備された中庭では映画の上映などが企画され広く一般に開かれ文化発信地としての役割を目指している。3階部分は6室の客室と宿泊者専用のライブラリーとなっている。縁側を持つ客室は、和紙職人ハタノワタルによる、床までも和紙が貼られた内装で、繭をイメージしたやさしくつつまれるような空間となっている。

 

こうして伝統技術を用いた職人たちの手による工芸品のようなスタジオ・ムンバイの作風は、尾道において現地の建築家、施工者、職人やワークショップの参加者との協働によって、損なわれることなく見事に実現されている。この地の土や、取り壊した土壁を再利用した漆喰壁やきめ細かいテクスチャーの扱い、丁寧に練られディテ−ル、豊かな色彩は実に楽しく美しい。

 

料理家・細川亜衣による素材から吟味された食事を味わい、多くに人の手と時間をかけてつくられたここでしか体験できない空間の中で、文豪が日々みた尾道の変わらぬ風景を見ながら目覚める。これこそ尾道での贅沢の極みではないだろうか。(text-JIro Tsukamoto)

  • デラックスルーム。部屋の中央にダブルベッドが置かれている。写真提供/LOG
  • スタンダード2ベッドルーム。最大で4名の宿泊が可能。写真提供/LOG
  • LOGのエントランス。千光寺へと向かう石段の坂道途中にある。写真提供/LOG
  • スタジオ・ムンバイのビジョイ・ジェインにより設置された階段。© Sira E. Goodman
  • 一階共有スペース。元々は集合住宅の部屋だったところをリノベーションした。© Sira E. Goodman
  • 二階の共有スペースから尾道水道を眺める。© Sira E. Goodman
  • ギャラリー。スタジオ・ムンバイによるデッサンや模型などが展示されている。© Sira E. Goodman
  • ギャラリーの展示。スタジオ・ムンバイが様々な素材を検討した様子がうかがえる。© Sira E. Goodman
  • LOGのダイニングルーム。木漏れ日が差し込む中、食事ができる。写真提供/LOG
  • LOGのカフェ&バー「アトモスフィア」。宿泊客でなくても利用できる。写真提供/LOG
  • LOGの通路。集合住宅だった時の面影が残る。© Sira E. Goodman
  • LOGの中庭側から見る。© Sira E. Goodman

広島県尾道市東土堂町11-12

TEL 0848・24・6669

1階・2階は見学自由だが、3階は宿泊者のみ。

カフェ・ダイニングの利用は要事前確認。

歩いてすぐのところに志賀直哉の旧邸あり。

https://l-og.jp/