©Sira E.Goodman

後山山荘

1923頃 / 2014

設計:藤井厚二/改修:前田圭介

あの「聴竹居」を設計した建築家・藤井厚二の、幻の建築が蘇った。

環境共生建築の先駆け、京都・大山崎にある住宅「聴竹居(ちょうちくきょ)」(1928)で知られる広島県福山市出身の建築家・藤井厚二。その藤井が実兄・与一右衛門のために建てたのがこの「後山山荘」である。映画「崖の上のポニョ」の制作時には宮崎駿が数か月逗留したという昔ながらの風光明媚な港町、鞆の浦(とものうら)。この古く小さな港を見下ろす丘に、この住宅は建っている。

 

「後山山荘」は、「聴竹居」に通ずる意匠や小屋裏の換気窓をもつサンルームが1928年ごろ藤井厚二によって増築されたといわれ「聴竹居」と多くの共通点をもっていた。しかし、昭和初期に建てられたこの住宅は戦後から使われることなく放置されてきた。

 

この地に新たな別荘を計画していた新しいオーナーは、いまにも崩れそうなほど荒廃していたこの建物の再生を同じ福山出身の建築家・前田圭介に託す。藤井の思想を現場でくみとりながら、前田は大屋根と二段屋根をもつ外観やもっとも特徴的なサンルームを継承しつつも、外気と室内との緩衝部となる内路地や空気の流れをつくるためのサンルーム内壁に開口を設けるなど、前田自身で再解釈し再生をはかった。

 

車が寄り付けない条件の中、極力オリジナルの部材を再利用するために、手作業による材料の選別や部材の補修といった手間をかけ4年におよぶ難工事を、職人の技とともに見事やり遂げている。現存する数少ない藤井の手がけた住宅であり、福山に唯一の藤井作品であるこの「後山山荘」。現在は見学も可能なギャラリーとして利用され、工学的な理論をもとに日本の気候への共生を模索した藤井と、気鋭の建築家である前田の世代を超えた時をこえたセッションのような協働の足跡を誰でも体験することができる。(text-Jiro Tsukamoto)

  • 後山山荘を南側より見る。一番左手にある部屋がサンルーム。©Koji Fujii/Nacasa & Partners Inc.
  • 福山出身の建築家、前田圭介が新たに内装を手掛けた。©Koji Fujii/Nacasa & Partners Inc.
  • 後山山荘の内観。©Koji Fujii/Nacasa & Partners Inc.
  • 眼下には、小さな港町、鞆の浦が一望できる。©Koji Fujii/Nacasa & Partners Inc.
  • 山側からサンルームを見る。©Hiroshi Ueda
  • リノベーションを行う前の後山山荘の姿。©UID
  • リノベーションを行う前の後山山荘の内部の様子。©UID

広島県福山市鞆町後地。

公式HPより見学の申込可(受付は、見学希望日3ヶ月前の1日~見学希望日2週間前の日曜日まで)。

見学は原則、毎月第2日曜日の10時〜15時。

見学料 1000円。

見学には様々な注意事項があるので公式HPを要確認。

http://ushiroyamasansou.com/