
JR尾道駅
設計:アトリエワン(塚本由晴+貝島桃代+玉井洋一)
定食屋からユースホステルまで併設。アトリエワンが設計した尾道の新しい顔。
瀬戸内の鉄道の旅は格別だ。車窓に流れる海の景色、そして海とともに暮らす人々の暮らしをのんびりと垣間見ることができる。そしてプラットホームで列車を降り改札をくぐると、目の前にドーンと尾道水道の景色が広がる――。旅のはじまりに相応しい港町・尾道らしいこの風景は、コンコース、駅、駅前広場、尾道水道がグランドレベルで一体的につながることで実現したものだ。今ほとんどの駅が橋上駅だが、建て替え後もあえて地上駅としたことでこの風景が享受できるようになったのだ。
その駅舎は尾道の街に沿ったスケールと調和をめざし、駅周辺の大規模な施設に対してあえて低い軒(のき)をもった屋根形状とし、背後の山へ人々の視線を導いている。これは大正期に建てられた初代駅舎の屋根をモチーフに<アトリエ・ワン>が設計したものだ。深い軒は人を招き入れつつ、ガラススクリーン越しにそれぞれの施設の視認性を高める効果もある。
誰もが利用できる2階の展望デッキを違和感なく取り込んだ形状の屋根に下には、駅舎機能だけでなく、食、宿、体験素材の提供をめざし、飲食店、ホステル、レンタサイクルなどの機能が包括されている。この新しい試みは瀬戸内地域の観光拠点となり地域価値の向上をめざしたJR西日本の駅舎のプロトタイプとなるもの。駅直結のホステル「m3 HOSTEL」は高い天井の懐を活かし積層された寝台が設置されている。寝台は家具でありながら建築的なスケールをもっている。柱には広島県産のスギが使われ、木材のぬくもりの中で寝起きすることができるが特徴だ。
ホステル内の一部の寝台や共用ラウンジからは列車の往来を間近で見ることができ、それがこの駅直結の宿泊施設ならではの楽しみである。共有スペースには、旧駅舎の部材や、駅舎を支えてきたレンガも大切に壁面に再利用されている。そんな歴史の断片を見つけるのも楽しみのひとつだ。
列車を降りると海に出迎えられ、旅立つときは屋根越しに丘を望み坂の町を思いおこす――。古いものと新しいものとの共存を目指す、実に尾道らしい駅である。(text-Jiro Tsukamoto)
広島県尾道市東御所町1−1
TEL 0848・29・9330(エムスリーホステル)
1階にある「おのまる商店」では、お土産や テイクアウトフードの販売、レンタサイクルの貸し出しもやっている。
JR尾道駅
㎥ HOSTEL(エムスリーホステル)
おのまる商店